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全体版 特許庁産業財産権制度問題調査研究について | 経済産業省 特許庁

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平成29年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書

特許権侵害における

損害賠償額の適正な評価に向けて

平成30年3月

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はじめに

特許権が侵害された場合の最後のよりどころは、紛争処理システムであるところの訴訟制 度である。訴訟制度を通じて特許権が実効的に保護されなければ、新たな発明を生み出す インセンティブが生じず、発明が社会全体で活用され、さらに再投資されるという知的財 産創造のサイクルが機能しなくなるおそれがある。

この点について、特許制度の活用によるイノベーション創出に向けて、ビジネスの実態や ニーズを反映し、特許権者及び侵害者の両者に納得感のある適切な損害賠償額を実現する ことの必要性が指摘されている。そして、弁論主義に基づく我が国の訴訟制度において、 納得感のある合理的な損害額認定のためには、紛争当事者の用意する損害額の算定根拠等 の主張立証によるところが大きいといえる。

そこで、特許訴訟における損害賠償額を認定する上で考慮すべき要素について、日本及び 諸外国の裁判例に現れ、又は訴訟外のライセンス交渉時に検討される考慮要素を調査し、 発明へのインセンティブの付与と発明の利活用の推進のバランス等について、法と経済学 の観点を含む見地から検討することで、もって、紛争当事者が損害賠償額を適正に評価す る際に有用な基礎資料の作成することを目的として、ワーキンググループ(特許権侵害に おける損害賠償額の適正な評価WG)を設置し調査及び検討を行った。

具体的には、公開情報調査、国内ヒアリング調査及び主要諸外国への海外質問調査を進め るとともに、これらを基に有識者・実務者により構成される委員会にて検討を行った。本 報告書はこれらの内容を取りまとめたものである。

本報告書の執筆に当たっては、委員会委員である末吉亙氏、岡田誠氏、加賀谷哲之氏、上 柳雅誉氏、窪田充見氏、萩原恒昭氏、三村量一氏から大変貴重なご意見をいただいた。ま た、本調査にご協力いただいた我が国企業の知財部門担当者や海外主要国の知財専門弁護 士の諸氏のご意見は資料編にまとめたが、本報告書の執筆において大変参考となった。こ こに改めて御礼を申し上げる。

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要約

I. 序

1.背景・目的

・特許権の活用によるイノベーション創出に向け、ビジネスの実態やニーズに即した権 利者及び侵害者双方に納得感のある適切な損害賠償を実現することが必要といえる。 ・統計では、日本での裁判所が認定する損害の認容額の水準について、米国との比較で

は低いが、他の主要国との比較においては日本の認容額が著しく少額とは言い難い。 また、米国においては陪審制度によって高額の認容額が認められる場合があるなど、 厳密な比較が困難な側面もある。

・日本では認容額が低く損害の補償や侵害抑止が不十分であり、懲罰的賠償制度の導入 を検討すべきとの意見があるが、不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則(填補賠 償)と相容れないとの最高裁判決や産業界の意見等から、慎重な検討が必要といえる。 ・そこで、特許権侵害における損害賠償額を認定する上で考慮すべき要素について検討

し、紛争当事者が損害賠償額を適正に評価する際に有用な基礎資料の作成を目的とす る。

2.実施方法

(1)公開情報調査、(2)国内ヒアリング調査、(3)海外質問調査、(4)委員会での検討

Ⅱ. 基本的な損害理論 1.民法第 709 条と差額説

・民法第 709 条では、損害額の算定において、差額説(不法行為の有無による財産状態 の差)が通説である。

2.特許法第 102 条による推定

・特許法では、特許法第 103 条による過失の推定、及び 特許法第 102 条による損害額 の推定により、立証負担が軽減されている。

・特許法第 102 条第 1 項又は第 2 項では、それぞれ権利者又は侵害者の利益を基礎に「逸 失利益」の額を損害額として推定する。

・特許法第 102 条第 3 項では、「実施料相当額」を損害額として推定する。

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3.弁護士費用等の損害賠償

・弁護士費用等について、日本では敗訴者負担が直ちには認められず、相当因果関係が あるものとして認められるのは一般に損害認容額の約 1 割といわれるが、実際の弁護 士費用等がこれを超える場合には損害が実質的に填補されない。

Ⅲ. 逸失利益

1.逸失利益の考え方

・一般的な経済理論として、逸失利益の額の算定では、販売数量の低下だけでなく、価 格低下による影響を受ける点も考慮可能である。

2.逸失利益の算定プロセスの概要

・逸失利益の額の算定方法としては、特許法第 102 条第 1 項又は第 2 項に基づく方法か 否かによって大別できる。

3.逸失利益の算定の枠組み

(1)特許法第 102 条第 1 項又は第 2 項による算定 ・侵害者の売上げを基礎とする方法

逸失利益=侵害者の販売数量×権利者(第 1 項)又は侵害者(第 2 項)の単位あたり利 益

※利益は限界利益(売上から変動費を控除した利益)を用いる。

・市場シェア法(市場シェアに比例して権利者が侵害売上の一部を達成していたと仮定) 逸失利益=侵害者の実際の売上げ× 権利者のシェア

権利者のシェア 非侵害競合のシェア ×権利者又は侵害者の利益率

・顧客アンケート調査法(アンケート調査により顧客の選択への影響等を推定する。) (2)特許法第 102 条第 1 項又は第 2 項以外の算定方法

・前後法(侵害発生前後の価格差を比較する。)

・計量経済学的手法(経済モデルにより逸失利益の額を推定する。) 4.逸失利益の算定における考慮要素

(1)市場における代替関係

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①商品間の代替性(用途、価格や数量、需要者の認識や行動等)、②地理的範囲(事業 地や需要地、商品特性、輸送手段や費用等)、③交差弾力性(財の価格変化が他の財の 需要量へ及ぼす影響)、④非侵害の競合の存在

(2)権利者の能力

・侵害がなかった場合、生産能力の拡大が可能であったかの考慮要素例として下記があ る。

設備投資、増産、流通及び営業体制確保、必要な費用・投資のための資金調達等の実 現可能性

(3)特許発明を実施していない部分に係る損害

・対象特許を直接使用していないが関連する部分について請求可能な類型: ①完成品中に特許を使用する機能及び使用しない機能がある

②特許製品と密接に関連する非特許製品のセット販売 ③特許製品に係る派生製品(修理部品、スペアパーツ等) (4)寄与率

・①対象製品の一部分のみが権利者の権利に係るものである場合や、②対象製品に係る 利益のうち特許権以外の要因が寄与する部分がある場合、寄与率が考慮され得る。 ・米国においては、売上げへの貢献要素として、特許に係る要素と特許以外の要素が存

在する場合であっても、実施品の需要が存在し、かつ、非侵害代替品がない場合には 切り分け(寄与率の概念に相当)による調整は不要、と判示された。

・逸失利益の額の推定は特許発明の価値と因果関係のある不当利得の額を問題としてい るのではないから、寄与率を特許法第 102 条第 1 項及び第 2 項で反映させることは不 適切とする学説もある。

・特許法第 102 条第 1 項及び第 2 項における販売数量等に関する減額プロセスの根拠理 由と、寄与率の根拠理由とが同様である場合には、同じ事情での二重減額となるとの 指摘もある。

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IV. 実施料相当

1.実施料相当の考え方 (1)基本的な考え方

・侵害がなければ権利者は(自社実施が不可能な場合でも)少なくとも侵害者から合理 的な実施料を得ていたであろうという想定が基礎となっている。

(2)実施料相当と逸失利益の関係

・侵害者が権利者の実施能力では参入できない範囲(市場や販売能力)で事業を行う場 合、異なる損害をそれぞれの手法で推定することとなり、実施料相当と逸失利益の重 畳適用は経済合理性がある。

2.実施料相当の算定プロセスの概要

・実施料相当の額の算定は、ロイヤルティベース(販売価格)と料率の積として求める 方法と、実施料(金額自体)を直接推定する方法に大別される。

※ジョージア・パシフィック基準は、米国において合理的実施料を推定する際の考慮要 素として参照されている。

3.実施料相当の算定の枠組み

(1)ロイヤルティベース及び料率の推定 (i)ロイヤルティベースの推定

・全体市場価値法:対象特許が完成品需要を喚起したといえる場合に合理的といえる。 ・販売可能な最小権利実施単位:同単位が特定可能かつその需要を喚起したといえる場

合に適用される。 (ii)料率の推定

・仮想的交渉:当事者に利益が出る水準の実施料範囲(交渉幅)について、

①下限は権利者の機会費用(自社実施や他社ライセンスよりも利益が出る水準等)、 ②上限は実施者が対象特許から得る利益(例:特許技術利用から得られる利益-代 替技術から得られる利益)から設定。

※米国では近年ナッシュ・バーゲニング法(交渉で両者が最も利益が得られる結果を模 索する経済学的手法)が採用される例がある。

・比較可能取引に基づく分析:

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適切な事例は少ないが合理的な場合が多い。

② その他の比較可能な特許につき第三者間で合意された実施料

日本では業界の平均的実施料率が多く利用されるが、対象技術や製品、市場、当 事者の競争関係等が異なること等から、合理性でない場合も多い。

(2)「ロイヤルティベース及び料率の推定」ではなく実施料(金額自体)の推定 (i)販売単位当たりの実施料の推定

・料率の推定と同様、仮想的交渉や比較可能取引に基づく分析が使用される。 (ii)コストアプローチ

・対象特許の価値を、その特許と同じ効果を持つ代替技術を構築する費用として推定す る。

4.実施料相当の算定における考慮要素

(1)「通常」のライセンス契約での実施料と特許訴訟での実施料相当

・訴訟外の契約では、対象特許の無効化リスクや第三者侵害リスクが存在し、実施料は そのリスクを割り引いたものとなる一方、訴訟では、侵害事実が前提かつ権利の有効 性も明らかとなっており、損害額の算定において、上記リスクを勘案する必要はない。 ・しかし現在の裁判実務では平成 10 年特許法改正趣旨が必ずしも十分に反映されてい

ないとの指摘があり、今後さらなる検討の余地もある。 (2)寄与率

・対象特許以外に価値貢献要因が存在する場合、対象特許が製品の価値に貢献する割合 を適切に反映させるとの考え方である。

・ロイヤルティベースが販売可能な最小権利実施単位である場合、料率の算定過程で既 に寄与率の概念が考慮されており、さらに寄与率を乗じることで二重に寄与率が考慮 されることになり、算定される実施料相当が過少なものとなる。

V. 損害算定の専門家

1.米国における専門家の活用

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・米国では、当事者から依頼を受けた損害算定の専門家(damage expert)が、中立的立 場から損害額やこれに係る因果関係について法廷において証言を行うことが多い。 2.我が国における専門家の活用

・より適切な損害額算定のため、我が国でも損害算定の専門家の利用が促進されるべき。 ・日本では計算鑑定人制度(特 105 条の 2)があるが、この制度は計算に使用する会計数

値の特定や正確性の検証を目的とし、損害算定において直面する経済的論点(市場で の代替性や寄与率、仮想的交渉における考慮要素など)について意見を求められるこ とは通常なく、利用も少ない。

3.専門家の業務

・損害算定の専門家の業務は、主に以下のように整理される。 ①損害の因果関係を含む事実関係の調査と分析

②損害ロジック及びモデルの構築に基づく損害算定 ③損害算定に係るコンサルティング

④法廷における証言及び専門家意見書の作成 4.専門家に求められる能力と資格

・損害算定の専門家に求められる主な専門性やスキルとして、①経済学、②会計、③財 務分析及びファイナンス、④データ処理及び統計学、⑤業界の専門性、⑥コミュニケ ーション能力に整理される。

5.専門家の独立性

・専門家の証言や意見書は、裁判において証拠として採用される可能性を前提としたも のであり、独立的立場からの客観的な意見であることが求められる。各専門家は倫理 的な基準を内部に持つことが重要といえる。

VI. 総合分析

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・実施料相当の額の算定の際に、我が国では業界平均料率や第三者とのライセンス契約 等の比較可能な取引を参照する方法が一般的であるが、比較可能性の面で重要な問題 がある場合には、米国で広く利用されている仮想的交渉のレンジを推定する方法を検 討する価値がある。

・訴訟外の一般的なライセンス契約での額と、特許訴訟での実施料相当の算定額とは、 特許権の無効化リスクや第三者侵害リスクの有無や、契約時期が遅れた場合や係争関 係での和解した場合には契約額が高額となることが多いとの実情を考慮すると、特許 訴訟での実施料相当の算定額の方が高額とすべきケースも多いと考えられる。その場 合には、各当事者は上記リスクに係る調整を加味して主張することが可能といえる。 ・逸失利益と実施料相当が同時に損害額として認容されることについては、米国では認

められるケースが多く、また、我が国について見ても、各判決の事情や経済合理性を 考慮すると、逸失利益の減額事由が特許権者の販売能力や生産能力であった場合等、 個別の事情によっては合理性があるといえる。

・寄与率については、客観性を高める手法として、我が国においてもコンジョイント分 析などの方法が利用可能といえ、また、逸失利益の算定において寄与率により減額さ れる際には、場合によっては同じ事情により二重減額となり得る点には留意が必要と いえる。

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「特許権侵害における損害賠償額の適正な評価WG」委員会名簿

委員長

末吉 亙 潮見坂綜合法律事務所 弁護士

委 員

岡田 誠 TMI総合法律事務所 弁護士・弁理士 加賀谷 哲之 一橋大学大学院商学研究科 准教授 上柳 雅誉 上柳特許事務所 所長 弁理士 窪田 充見 神戸大学大学院法学研究科 教授

萩原 恒昭 凸版印刷株式会社 執行役員 法務・知的財産本部長 三村 量一 長島・大野・常松法律事務所 弁護士

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オブザーバー

武重 竜男 特許庁 総務部総務課 企画調査官 大出 真理子 特許庁 総務部総務課 企画班長 高田 龍弥 特許庁 総務部総務課 企画係長

小岩 智明 特許庁 総務部総務課 法規班 課長補佐 宇津木 達郎 内閣府 知的財産戦略推進事務局 参事官補佐 高橋 佳子 内閣府 知的財産戦略推進事務局 参事官補佐 廣瀬 仁貴 法務省 大臣官房司法法制部 部付

松長 一太 最高裁判所 事務総局行政局 局付

小林 貴茂 最高裁判所 事務総局行政局第一課 課長補佐

事務局

今村 亘 特許庁 総務部企画調査課 課長 松本 要 特許庁 総務部企画調査課 企画班長 足立 昌聰 特許庁 総務部企画調査課 法制専門官

下井 功介 特許庁 総務部企画調査課 企画班 課長補佐 原 大樹 特許庁 総務部企画調査課 企画班 調査係長 関口 嗣畝子 特許庁 総務部企画調査課 工業所有権調査員 貝沼 憲司 特許庁 総務部企画調査課 研究班長

池谷 誠 デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社 マネージングディレクター

國光 健一 同 シニアヴァイスプレジデント 久我 恭子 同 ヴァイスプレジデント

高島 彰浩 同 シニアアナリスト 陳 卓 同 シニアアナリスト 早木 達史 同 アナリスト

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目次

はじめに 要約

委員会名簿

I. 序 ... 1

1. 背景・目的 ... 1

2. 実施方法 ... 4

II. 基本的な損害理論 ... 5

1. 民法第 709 条と差額説 ... 5

2. 特許法第 102 条による推定 ... 6

3. 弁護士費用等の損害賠償 ... 10

III. 逸失利益 ... 12

1. 逸失利益の考え方 ... 12

(1) 基本的な考え方及び経済モデル ... 12

2. 逸失利益の算定プロセスの概要 ... 16

3. 逸失利益の算定の枠組み ... 19

(1) 特許法第 102 条第 1 項又は第 2 項による算定 ... 19

(i) 侵害者の売上を基礎とする方法 ... 19

(ii) 市場シェア法 ... 25

(iii) 顧客アンケート調査法 ... 28

(2) 特許法第 102 条第 1 項又は第 2 項以外の算定方法 ... 29

(i) 前後法 ... 29

(ii)計量経済学的手法 ... 31

4. 逸失利益の算定における考慮要素 ... 32

(1) 市場における代替関係 ... 32

(i) 基本的考え方 ... 32

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I. 序

1. 背景・目的

特許権が侵害された場合の最後のよりどころは、紛争処理システムであるところの訴訟制 度である。訴訟制度を通じて特許権が実効的に保護されなければ、新たな発明を生み出す インセンティブが生じず、発明が社会全体で活用され、さらに再投資されるという知的財 産創造のサイクルが機能しなくなるおそれがある1

この点、我が国の裁判所は、特許の侵害事実の認定と差し止め判断については迅速であり、 判断のクオリティが高いという評価が一般的である(資料編Ⅱ、2.調査結果サマリーを参 照)。一方、特許権が侵害された場合の損害回復機能については、我が国の裁判所が認定す る損害額が総じて少額であるとの意見もあり2、一部において、特許権者の損害が十分に補

償されているかどうかについての懸念があることは事実である。

この点、確かに、統計を比較すると、主要国のうち、米国の認容額が突出して大きく、中 央値が約 2.5 億円であり、10 億円以上の損害が認容されるケースが全体の 35%を占めてい る。我が国の特許訴訟における認容額の中央値は約 2,380 万円であり、米国との比較では 大きな格差が生じている。しかし、米国以外の主要国と比較すると、我が国の中央値は特 に小さいわけではなく、ドイツ、中国、韓国と比べると我が国の認容額のほうが大きいと いう結果であり(資料編Ⅰ、図表 1 参照)、我が国の損害賠償額が著しく少額であるとは言 い難い。

さらに詳細に検討すると、日米の認容額の格差は、売上等で代表される訴訟当事者の企業 規模、又は産業界がどの程度活発に特許訴訟を活用するかによっても影響される可能性が あると考えられる3。さらに、米国では、特許権者の権利の保護を重視する傾向にあるとい

われる陪審制度によって高額の損害が認められる場合が多いこと(資料編Ⅰ、図表3及び資 料編Ⅲ、図表1)など、各国固有の制度的要因もある。このような様々な要因の違いにより 単純な損害額の比較には一定の限界があるという側面もある。

また、侵害の予防及び再発防止の観点から、懲罰的賠償制度の導入を検討すべきとの意見 があるが、我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則と相いれないもので

1 「知的財産推進計画 2017」(知的財産戦略本部、2017 年 5 月)17 頁

2 一般財団法人知的財産研究所「特許権等の紛争解決の実態に関する調査研究」(2015 年 4 月)91 頁

3 例えば、限定的な情報ではあるものの、近年の認容額上位 10 件の被告の売上額の平均は日米で約 39 倍の格差があり

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あると判示した最高裁判決4や産業界の意見等を踏まえると、この検討には、不法行為法の

体系全体も視野に入れざるを得ず、慎重な検討が必要になるといえる5

そこで、現行制度下における課題を考えると、前記のような意見や懸念の一因として、ビ ジネスの実態に即した、特許権者及び侵害者双方が納得感のある適切な損害賠償額の認定 又は損害算定の根拠の説明が必ずしも十分に実現されていないことがあるといえる6。この

実現は、裁判所に期待するところはあるものの、弁論主義に基づく我が国の訴訟制度にお いては、訴訟当事者が損害立証についての一義的な責任を負っている。つまり、合理的で 納得感のある損害額の認定のためには、当事者が合理的な損害算定の証拠を用意する必要 がある。

我が国の特許法は、第102条第1項ないし第3項において損害額の推定規定を設けており、損 害立証責任という意味では、国際的に見て特許権者にとり有利な制度を提供しているとい える。一方で、訴訟の当事者となり得る産業界などからは、損害算定のプロセスにおける 考慮要素が明確でないことや、参照すべき実施料等のデータの入手可能性など、具体的な 算定方法についての問題が提起されている7。すなわち、推定規定によって一定の算定は可

能であるものの、合理的な損害算定のための考え方や方法論について、十分な指針が得ら れていない実情があると思われる。

そこで前記のような我が国の実情を背景として、特許訴訟の紛争当事者が損害賠償額を適 正に評価する際に有用な基礎資料の作成を目的として、ワーキンググループ(特許権侵害 における損害賠償額の適正な評価WG)を設置し調査及び検討を行った。本報告書がその 成果物である。今回の調査及び検討では、法と経済学の観点を含む見地から、法律的な問 題の解決(損害額の立証)を目的としながらも、経済学の理論に即した解説を心がけてい る。我が国では、特許法第102条が推定規定を用意していることもあり、損害立証の方法論 についても法律論として語られることが多いが、損害算定の多くは経済的論点に係るもの である。

我が国の裁判例も、十分な証拠がある場合、経済的に合理的な論考が示されているケース は少なくないが、米国においては、ほとんどのケースにおいて経済学的なバックグラウン ドを持つ損害算定の専門家(damage expert)が関与し、当事者の損害立証を支援している。

4 最(二小)判平成 9・7・11(平成 5 年(オ)1762)民集第 51 巻 6 号 2573 頁

5 「知財紛争処理システムの機能強化に向けた方向性について」(知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会 知財紛争

処理システム検討委員会 2016 年 3 月)26-27 頁

6 前掲注(5) 30 頁

7 「我が国の知財紛争処理システムの機能強化に向けて」(産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会 2017 年 3

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裁判所は双方の専門家が提出する経済的な証拠や意見を比較して判断を行う。このように して蓄積された判例は、多くの経済的論点について、明確な基準を示している。そして、 近年では米国の裁判所が求める経済合理性の基準、とりわけ全体市場価値法をめぐる議論 のように、対象特許の製品価値に対する貢献度合い(我が国における寄与率と類似する概 念)についての基準が厳格となり、ここ3年間は、認容額がむしろ減少する傾向にあること は注目に値する(資料編Ⅰ、図表2参照)。

さらに、我が国企業のうち多国籍な事業を展開する企業については、我が国だけでなく、 海外、特に米国での特許訴訟の当事者となる事例も多い8(資料編Ⅱを参照)。このため、本

報告書では、特許訴訟における損害立証に係る主要な論点について、我が国と米国の判例 や学説における議論に基づき、理論的な背景や、具体的な算定方法を紹介することとした。 本報告書の構成は以下のとおりである。まず第II章で、特許訴訟に限らず一般的な不法行 為の損害に適用される、基本的な損害理論を紐解き、特許訴訟における損害が、侵害によ り不利益を被った特許権者の現実の利益状態と、侵害がなかった場合の特許権者の仮想的 な利益状態の差額として概念されることを確認する。

第III章では、逸失利益としての損害について議論する。侵害がなかった場合の仮想的市場 を想定する際に重要となる、市場における特許権者の製品と侵害者の製品、又は非侵害の 競合製品との間の代替関係について基本的理論を整理する。その上で特許法第102条第1項 又は第2項を利用する際の留意点、又は特許法第102条によらない逸失利益の算定方法につ いて解説する。

第IV章では、実施料相当の損害について、米国訴訟において確立されている仮想的交渉の 枠組みや、交渉における考慮要素としてのジョージア・パシフィック基準、全体市場価値 法、関連する経済学上の知見などについて解説し、我が国の特許法第102条第3項を適用す る場合の参考、及び寄与率を立証するためのコンジョイント分析など、今後我が国におい ても利用することが可能と思われる分析手法を提示する。

また、本報告書に付属する資料として、資料編Ⅰにおいて、特許訴訟の損害額に係る主要 国(日本、米国、ドイツ、英国、中国、韓国)の基本的統計を記載した。資料編Ⅱにおいて は、国内外の特許訴訟を経験した国内企業等へのヒアリング調査の結果をまとめた。資料 編Ⅲにおいては、懲罰的賠償の有無や、損害論を扱う裁判制度など、特許訴訟の制度面の 各国比較や、特許訴訟における損害算定手法等について、海外主要国(米国、ドイツ、英

8 日本技術貿易株式会社「2015 年日本企業の米国特許訴訟関与状況」によれば、2015 年の米国特許訴訟 5,818 件のう ち、日本企業が被告として関わった訴訟は 202 件、原告として関わった訴訟は 81 件であった

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国、中国、韓国)の実務家を対象とした海外質問調査、及び公開情報調査の結果をまとめ た。

2. 実施方法

(1)公開情報調査

損害賠償額の合理的な算定のために考慮すべき検討要素として、法と経済学の観点を含む 見地から、日本及び諸外国の裁判例や制度、訴訟外のライセンス交渉時に検討される考え 方等について調査を行った。

(2)国内ヒアリング

我が国及び海外において特許訴訟における損害立証の経験を有する各業界の主要企業に対 し、損害立証に係る経験や、現実の交渉におけるライセンス料率に関する考え方について ヒアリングを実施した(2017 年 9 月~2017 年 12 月実施)。

(3)海外質問調査

海外主要国(米国、ドイツ、英国、中国及び韓国)における特許訴訟の制度や実務に係る 論点のうち、損害立証に係る論点について、各国の知的財産を専門とする弁護士に対して 質問調査を実施した(2017 年 9 月~2018 年 2 月実施)。

(4)専門的な見地からさらに詳細な検討を行うために、学識経験者、産業界有識者、弁護士 及び弁理士 7 名からなる委員会を 3 回開催した。委員会の開催日時と主な議題は、以下の とおりである。

(ⅰ)第 1 回委員会

日時:2017 年 9 月 25 日 15:30~17:30 議題:本調査の進捗報告及び進め方の検討 (ⅱ)第 2 回委員会

日時:2017 年 12 月 18 日 10:00~12:00

議題:本調査の進捗を踏まえた各論点についての分析・議論 (ⅲ)第 3 回委員会

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II. 基本的な損害理論

1. 民法第709条と差額説

合理的な損害額を算定するためには、まず、対象とする事案について、事実を基礎として、 ある行為がどのような経緯を経て、どのような結果に至ったかという因果関係を整理する。 これを法的な枠組みに当てはめて、不法行為を原因としてどのようなシナリオで損害が生 じたかという「損害理論」を検討する。そして、その損害理論に基づき、損害を算定する ための方法(損害モデル)を構築する。

我が国の民法第709条は、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵 害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと規定している。ここにいう 損害とは、不法行為がなかった場合の仮想的な財産(利益)状態と不法行為を受けた現実 の財産(利益)状態との差であるとする「差額説」と、権利利益の侵害という事実そのも のを損害と捉え、差額説における「差額」がない場合でも規範的損害を肯定する「損害事 実説」があり、差額説が講学上は通説であるとされてきた9。このような差額説に基づく損

害は、ある不法行為によって誰かが不利益を被った場合、そのような不利益を相殺する、 つまり不法行為がなかったときの利益状態に回復させることが損害賠償(補償的賠償)で ある、という考え方と整合的である。

損害=不法行為がなかった場合の仮想的な利益状態-不法行為により不利益を被 った現実の利益状態

多くの場合、差額説の下での損害を立証するに当たっての困難は、不法行為がなかった場 合の仮想的な利益状態をいかにして想定し、その額を算定するかである。不法行為により 不利益を被った現実の利益状態は現実に存在し、観察が可能であるのに対し、不法行為が なかった場合の仮想的な利益状態は、定義上、観察が不可能であり、いかに合理的に推定 するかが議論となり得るためである。

したがって、差額説の下での損害理論の構築とは、不法行為によりどのような因果関係を 経て不利益(例えば、売上の減少)が生じたか、換言すれば、不法行為がなければどのよ うな利益状態となっていたか(例えば、売上の増加又は維持)というシナリオを合理的に 想定することであり、損害モデルはこのような損害理論に従って具体的な損害額(差額) を算定する方法である。ここで、前記の因果関係を検討する場合、単に因果関係が成り立

(32)

ち得るというだけでは足らず、相当因果関係、すなわち因果関係の近接性を考慮する必要 がある。

特許権も財産権であるから、故意又は過失による権利侵害は不法行為であり、特許訴訟に おける損害賠償の基本法は民法第709条である10。すなわち、特許権侵害に起因する損害と

は、侵害がなかった場合の仮想的な利益状態から侵害により不利益を被った特許権者の現 実の利益状態を控除した金額となる。

特許訴訟の損害=侵害がなかった場合の特許権者の仮想的な利益状態-侵害によ り不利益を被った特許権者の現実の利益状態

なお、米国の特許訴訟においては、前記と同様の、損害は権利利害がなかった場合の特許 権者の利益と、侵害の下での現実の利益との差として測定すべきという原則は、1886年の

Yale Lock Manufacturing Co. v. Sargent11判決などにおいて、すでに確立されている。

2. 特許法第102条による推定

民法第709条によれば、特許権侵害を含む不法行為の損害を請求するためには、①故意又は 過失、②特許権侵害を構成する事実(加害行為)、③損害の発生及び額、並びに④特許権侵 害と損害との間の因果関係を主張立証する必要がある。この点、特許法第102条は、特許権 侵害による損害賠償請求権の請求原因事実のうち、前記③及び④に関する特別規定であり、 特許権者が損害賠償を請求する場合、同条第1項から第3項までの損害額の推定規定を利用 することを認めている。また、第103条は、前記①の過失の存在を法律上推定したものであ るとされている12。これらにより、我が国の特許訴訟における特許権者の損害立証の負担が

軽減されているといえる13。また、比較的簡易な算定により損害額を算定することができる

ため、損害理論や損害モデルを構築する負担の一部も軽減されているといえる。特許法第 102条の規定については後述するが、その概念を簡潔にまとめると次のように表記できる。

• 損害=侵害者の譲渡数量×特許権者の単位当たり利益(第1項)

10 溝上哲也「知的財産権侵害における損害論」大阪弁護士会 知的財産法実務研究会編『知的財産権・損害論の理論と 実務』別冊 NBL139 号(商事法務 2012 年)3 頁

11 Yale Lock Mfg. Co. v. Sargent, 117 U.S. 536, 117 U.S. 552.

12 吉田和彦「損害賠償」高林龍=三村量一=竹中俊子編『現代知的財産法講座 II 知的財産法の実務的発展』(日本評

論社 2012 年)159 頁

(33)

• 損害=侵害者が侵害行為により得た利益(第2項) • 損害=実施料相当(第3項)

これらのうち第1項は、前記のとおり、侵害者の譲渡数量と特許権者の単位当たりの利益を 乗ずることによって損害額を推定するものである。第1項における侵害者の譲渡数量とは、 侵害者による「侵害の行為を組成した物」の譲渡数量であり、特許権者の単位当たり利益 とは、「特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の 単位数量当たりの利益」とされている。ただし、推定される損害額は、「特許権者又は専用 実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度」に限定され、「譲渡数量の全部又は一部 に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情」があ るときは、これに相当する数量に応じた金額を控除することが求められる。

立証責任に関しては、第1項の規定の文言からして、①侵害者の譲渡数量、②単位当たりの 利益の額及び③特許権者又は専用実施権者(以下、併せて「特許権者」という。)の実施能 力については、特許権者が主張立証責任を負い、他方、譲渡数量の全部又は一部に相当す る数量を特許権者が販売することができないとする事情に相当する数量は、侵害者が主張 立証責任を負うものと解されている14

また、第2項は、侵害者の権利侵害により生じた特許権者の損害を、侵害者が侵害行為によ って得た利益とみなすものである。第2項の規定は、昭和34年の特許法改正の際、第102条 第1項として設けられたものであるが、当時の立法趣旨は、特許権者にとって損害の立証が 困難であり十分な賠償を得られないという事情に鑑み、「侵害により自己が受けた損害の額 の立証をすることの困難に比べれば相手方の受けた利益の額の立証の方が幾分でも容易で ある」という理由から特許権者を保護するために同規定が設けられたと説明されている15

なお、第2項は侵害者の利益を基礎として損害額を推定するものであるが、法的にはあくま で特許権者の逸失利益の推定であって、不正利得の吐き出し(disgorgement)とは異なる と考えられている16。また、第2項も、第1項と同様、損害は特許権者の能力により製造販売

できたであろう数量の範囲に限定され、特許権者が販売することができないとする事情が あるときはこれに相当する数量に応じた金額を控除することが求められると解されている

17

14 特許庁 平成 10 年改正法解説 18-19 頁

15 特許庁編『工業所有権(産業財産権法)法逐条解説』〔第 20 版〕(発明協会 2017 年) 325 頁

16 吉田・前掲注(12) 168 頁

(34)

第3項は、「その特許発明の実施に対して受けるべき金銭の額に相当する額の金銭」、すなわ ち実施料相当を特許権者が請求可能な損害の額として推定することを認めている。第3項も 第2項と同様、昭和34年の特許法改正の際、特許権者にとって損害の立証が困難であり十分 な賠償を得られないという事情に鑑みて設けられた規定であるが、これに続く第4項は、「前 項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない」としており、実 施料相当を最低限請求可能な損害賠償額として法定したものと考えられている18

多くの場合(本報告書においても)、特許権訴訟の損害の類型として、主に算定方法の違い から、「逸失利益の損害」と「実施料相当の損害」に大別するが、実施料相当もまた逸失利 益の損害であり、差額説で説明することができる。すなわち、もし侵害がなかった場合の シナリオとして、特許権者が自己実施せず、特許権等を侵害者にライセンスすることによ り実施料相当を得ていたという想定が可能であり、このような想定の下では、実施料を得 ていない現実の経済状態と、実施料を得たであろう仮想的シナリオの経済状態の差額が損 害額となると考えることができる。

加えて、特に逸失利益の算定を行う場合には、特許権者が保持する証拠や公表された証拠 に加えて、侵害者の販売数量や利益等に関する各種証拠が必要なケースも多いため、より 適切な損害賠償額を実現するためには、証拠収集手続の強化が望まれるといえる。なお、 現在、我が国において、特許制度小委員会においてこの強化に関する措置を提言する報告 書案が公表19されており、これは本実現の観点にて望ましい方向性に向かっているといえ

る。

なお、米国の特許訴訟においては、我が国と同様、差額説を土台として損害が定義されて いるが20、米国特許法284条21には、損害額は侵害を補償するに十分な額でなくてはならず、

その賠償額は少なくとも合理的実施料、及び裁判所が認める金利や費用の合計額を上回る ものでなければならないと規定されているのみで、我が国の特許法第102条に当たるような 損害額の推定規定はない(本調査において調査対象とした海外主要国(米国、ドイツ、英 国、中国及び韓国)のうち、韓国のみが我が国と同様の推定規定を有している。)。 したがって、米国の特許訴訟においては、特許権者は、侵害者の侵害行為に起因して特許 権者の逸失利益がもたらされたという因果関係を立証しなければならない。そのような因

18 前掲注 14 326 頁

19 「第四次産業革命等への対応のための知的財産制度の見直しについて(案)」 (産業構造審議会 知的財産分科会

特許制度小委員会 2017 年 12 月 26 日 第 24 回特許制度小委員会資料)6 頁以下を参照。

20 Aro Mfg. Co., Inc. v. Convertible Top Co., 377 U.S. 476 (1964)など。

(35)

果関係の立証プロセスにおいては、通常、パンデュイットテスト(Panduit Test)が利用 されている。パンデュイットテストとは、Panduit Corp. v. Stahlin Bros. Fibre Works, Inc.22により判示された逸失利益認定の基準であり、特許訴訟において逸失利益を認める場

合のチェックリストとして確立している。パンデュイットテストは次の4つの要件により構 成されている。

① 実施品の需要が存在すること

② 非侵害の代替商品が存在しないこと

③ 特許権者が需要を取り込むための製造販売能力を有していたこと ④ 特許権者が得ていたであろう利益の額

逸失利益としての補償を求める場合には、特許権者は、パンデュイットテストに基づいて、 侵害行為が当該逸失利益をもたらしたという因果関係、換言すれば、仮に侵害行為が存在 しなかったならば、追加的な利益を得ていたという合理的な蓋然性があることを立証する 必要がある(前記①及び②の項目が、市場の競争的状況についての経済的な考察を要求す ることは、第III章3.節(1)の(ii) や4.節(1)の(iv)で後述する。)。一方、特許権者がこの ような立証をすることができないのであれば、合理的実施料の補償を受けることとなる。 一方、我が国における特許法第102条の推定規定はあくまで、特許権者の立証負担を軽減す るためのものである。したがって、損害がどのように発生し、その発生経緯に照らしてど のような算定方法が適切か、という問題は、民法第709条の差額説に立ち戻って検討する必 要がある23。そのような検討があれば、推定規定の利用が適切かどうかの判断や、推定規定

を利用する場合であっても、計算上の数値(インプット)の合理性などを確認することが 可能であるし、さらには後述するような、推定規定に明確には記載されていないような論 点への対応についても指針を得ることができる。

特許法 第102条

特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害 した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者が その侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項にお

22 Panduit Corp. v. Stahlin Bros. Fibre Works, Inc., 575 F.2d 1152 (6th Cir. 1978).

(36)

いて「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販 売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用 実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が 受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を 特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情 に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害 した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者が その侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施 権者が受けた損害の額と推定する。

3 特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵 害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、 自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合 において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、 裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

3. 弁護士費用等の損害賠償

我が国の民事訴訟法上、訴訟費用については、主文において敗訴者負担とし得るものの、 弁護士費用については、当然には敗訴者負担が認められず、基本的には当事者各自の負担 である。もっとも、判例上は、不法行為における損害賠償請求権としての弁護士費用相当 額については、事案の難易、請求額、認容額その他の事情を勘案して、相当と認められる 範囲に限って、不法行為による損害賠償として請求できるとされる24。一般的に、損害賠償

請求事件における弁護士費用相当額の損害賠償については、基本となる損害賠償請求の認 容額の約1割程度に相当する額が、加害行為と相当因果関係のある損害として認められてい るといわれる25

24 最(一小)判昭和 44・2・27(昭和 41(オ)280)民集 23 巻 2 号 441 頁、潮見佳男『不法行為法』(信山社出版 1995

年)265 頁

25 「特許侵害に対する救済措置の拡充について」(工業所有権審議会企画小委員会 第 4 回 配布資料 2 平成 10 年 10 月

(37)

特許権者の損害賠償請求が認容された場合において、弁護士費用等の負担が損害回復の重 要な要素となる場合がある。すなわち、比較的小規模なケースにおいては、合理的な損害 賠償が得られるとしても、弁護士費用等の存在により、結局のところ損害回復が達成でき ないということは生じ得る。先端技術等の高度な専門知識を要し、他の民事訴訟分野に比 べて、弁護士の選任率が極めて高い特許訴訟においては、弁護士費用の分だけ賠償額が減 額されてしまい、十分な救済がなされているとはいえない、との指摘がある26

本調査における、国内外の特許訴訟対応の経験を有する国内企業にヒアリングを行ったと ころ、我が国における特許訴訟において要する弁護士費用等は(特に米国と比較して)比 較的合理的であり、弁護士費用等の存在が損害回復の障害となっているという意見は見ら れなかったが(資料編Ⅱ、資料編Ⅲ)、損害の回復及び救済との観点では認容額に含まれ得 る額と実際の費用額とが大きくかけ離れた場合については好ましくないといえる。

(38)

III. 逸失利益

1. 逸失利益の考え方

(1) 基本的な考え方及び経済モデル

本節では、民法第709条の差額説に基づく損害、すなわち特許訴訟において、「侵害により 不利益を被った特許権者の現実の利益状態」と「侵害がなかった場合の特許権者の仮想的 な利益状態」との差としての損害をより具体的にイメージするために、基本的な経済学上 のモデルを用いて説明する27。なお、特許権は、その制度趣旨に従えば、特許権者に独占状

態での利益を与え得るため、多くの場合、市場における独占的状態、又は侵害者が市場に 参入した後であっても寡占的状態が生じる。したがって、以下で検討すべき経済モデルも 完全競争ではなく、独占又は寡占市場を前提としたものとなる。

ある特許権を保有するA社(特許権者)が、特許権を実施してAXという商品を製造販売して おり、その市場において、B社はA社の権利を侵害し、BXという商品を製造販売していると する。図表1は、このような、侵害が生じている現実の市場における、A社が直面している 需要曲線を示している。ここで需要曲線とは、財やサービスの価格と需要量との関係を示 す曲線(曲線といっても、通常、簡便的に直線で表記される。)であり、経済学の基本原則 が示すように、価格が上がれば需要量は減少し、価格が下がれば需要量は増加するから、 縦軸に価格、横軸に需要量をとったグラフにおいて、一般的に需要曲線(D)は右肩下がり である。

ここで、価格が上がったとき(下がったとき)にどれくらい需要が減少(増加)するかは、 市場における需要の価格弾力性(後述する自己弾力性と同義である。)によって決まる。そ して、需要曲線の傾きは、需要の価格弾力性を表す。需要曲線の傾きが急であるほど、価 格弾力性が低い(一定の価格変動に対して需要量はそれほど大きく変動しない)ことを意 味し、逆に傾きが小さければ、価格弾力性は高くなる(一定の価格変動に対して需要量が 大きく変動する)。また、需要の価格弾力性は、消費者がどの程度AXとBXをそれぞれの代替 品とみなしているかを反映している。AXとBXの代替性が高いほど、AXの価格上昇に対して、 BXに切り替えようとする消費者が多くなるので、AXの需要の価格弾力性は高くなる。 B社が侵害行為により市場に参入しA社との競争が生じている場合、つまり「特許権侵害が ある」現実のシナリオにおいて、A社は図表1のような需要曲線に直面する。ここで、点線 MCは限界費用、すなわち、AXを1単位追加的に製造販売するのに必要な費用である。以下で

27 本節における経済モデルについては、Gregory K. Leonard and Lauren J. Stiroh, “Economic Approaches to

(39)

は便宜的に、限界費用はそれまでにどれほどの数量を生産していたとしても一定であると 仮定する。したがって、図表1においてMCは水平な直線となっている。

次に、点線MRは限界収入を表している。限界収入とは、追加的な1単位の売上に対して得ら れる収入である。右肩下がりの需要曲線(D)の下では、生産者は、生産数量が大きくなる ほど価格を下げなくてはならないから、追加的な1単位の生産数量だけではなく、従来販売 してきた商品すべてについても値下げをする。したがって、生産数量が大きくなるほど、 追加的な1単位の売上が小さくなるだけでなく、これまで販売してきた商品からの収入が減 少する。その結果、図表1において明らかなように、MRは需要曲線よりも下に位置し、需要 曲線よりも急な傾きを持つ右肩下がりの曲線となる28

A社にとって、最も有利、つまり利潤を最大化させる販売数量とは、図表1においてMCとMR が交差する点に対応する水準Qである。そして、利潤最大化のための価格とは、需要曲線(D) 上でQに対応するPである。MRとMCが一致するということは、商品を1単位追加的に販売する ことによって得られる収益と費用が一致し、追加的な利益がゼロであるということである。 この水準以上数量を増加させる(価格を下げる)と、MRがMCを下回り、損失が生じるからA 社は販売数量拡大のインセンティブを持たないし、この水準以下であれば、追加的に生産 販売することで、追加的な利益を得られるからA社は販売数量を増やそうとする。したがっ て、結局のところ、MRとMCが一致する点が販売数量や価格の均衡点ということができる。 図表1 侵害がある場合の市場(寡占状態)

(40)

それでは、もしB社による特許権侵害がなく、市場においてBXが販売されていなかった場合 はどうなるだろうか。BXが存在しないAXの独占市場を想定すると、A社が直面する需要曲線 は、特許権侵害があった場合の需要曲線(図表1)と2つの点で異なっていたはずである。 第一に、どの価格においても、AXの需要量はより大きなものとなっていたことが想定され る。これは需要曲線の右側へのシフトとして表される。特許権侵害がなければBXは販売さ れないので、BXの消費者の一部はその代替品であるAXを購入するはずである。A社の需要曲 線のシフトの大きさは、一定の価格においてA社に切り替えるB社の顧客がどれほど多いか で決まる。切り替える顧客が多いほど、需要曲線の右側へのシフトは大きくなる。 第二に、特許権侵害がなかった場合、代替品としてのBXが存在しないので、A社が商品価格 を引き上げたとき、AXを購入した顧客は需要を切り替えることができない。つまり、需要 の価格弾力性が低下することによって、A社の需要曲線の傾きは、全体的にB社と競争して いたときよりも急な傾きとなるから、AXの価格が引き上げられたとしても、需要が大きく 減少しない。これら2つの効果の結果として、特許権侵害がなかった場合のA社の需要曲線 は図表1のDから図表2のD’にシフトすることとなる。

図表2 侵害がない場合の市場(独占状態)

(41)

損害(逸失利益)=(Q’-Q)×(P-MC)

図表2では、特許権侵害がなかった場合、A社は侵害があった現実の場合と同じ価格Pで商品 を販売すると想定しているが、前記のようにB社との競争がなくなったことで需要曲線D’ の傾きはより急なものとなっている。すなわち需要の価格弾力性がより小さなものとなる ので、A社には価格をP以上に引き上げるインセンティブが存在する。

前記のとおり、利潤最大化価格は限界収入曲線と、限界費用曲線の交点で求めることがで きる。したがって、A社が選択するのは、特許権侵害がなかった場合の限界収入曲線(図表 3の点線MR’)と限界費用曲線(図表3のMC’)が交わる点に対応する価格P”であり、A社 の実際の価格Pを上回る。つまり(P”-P)が特許権侵害によって生じた価格低下の金額で ある。さらに、図表3を見ると、需要曲線D’において価格P”に対応するA社の販売数量は Q”となる。このように、特許権侵害の有無により価格が変わらないと仮定した場合の価格 Pから、価格P”に引き上げることで、A社が利潤を最大化できる販売数量はQ’からQ”へ変 化する。

これを特許権侵害がなかった場合のA社の利益状態とすると、侵害により不利益を被った特 許権者の現実の利益状態と、侵害がなかった場合の特許権者の仮想的な利益状態との差と して定義される逸失利益としてのA社の損害は、図表3のシェード部分で表すことができる。 シェード部分は既存の売上の価格上昇分に販売数量の追加による増分利潤を加えた(P”- P)×Q+(P”-MC)×(Q”-Q)に等しい。A社は価格をPからP”に引き上げることによ って販売数量をQ’からQ”に減らすことになっても、価格上昇で利潤総額が増加する。つ まり、図表3のシェード部分のほうが図表2よりも大きくなる。

損害(逸失利益)=(P”-P)×Q+(P”-MC)×(Q”-Q)

(42)

このように、逸失利益の概念は、販売数量減少に伴う影響だけではなく、我が国の事例で はあまり議論されることのない価格低下による影響も含むことに留意する必要がある(こ の点、第III章3.節(1)の(ii)で後述するオキサロール事件は、我が国の特許訴訟において、 価格低下による損害が認められた数少ない事例である。)。

2. 逸失利益の算定プロセスの概要

1.(1)で述べたとおり、特許訴訟における逸失利益としての損害とは、侵害がなかった場合 の仮想的な利益状態から侵害により不利益を被った特許権者の現実の利益状態を控除した 金額として算定される。このような損害理論に基づくものである限り、算定方法につき特 定の制約はなく、実際、様々な手法が想定可能である。

(43)

図表4 主な逸失利益算定手法

手法

概要 算定式(例) 留意事項

102

侵害売上

を基礎と

する方法

(第1項

と第2項

による推

定)

• 侵害者の譲渡数量を基

礎として、侵害がなか

った場合の特許権者の

利益を推定する方法。

• 逸失利益=侵害者の

販売数量×特許権者

又は侵害者の単位あ

たり利益

• 非侵害競合が存在

しないなど多くの

前提が必要。

• 権利品と侵害品の

間の代替性が十分

でない場合、「販

売できない事情」

に係る数量の控除

(44)

• 侵害者の譲渡数量

が特許権者の実施

能力を超える場

合、超過分の数量

控除が必要。

市場シェ

ア法

• 非侵害競合が存在する

場合、特許権者が適切

に確定された市場のシ

ェアに比例して特許権

侵害のあった売上の一

部を達成していたと仮

定する方法。

• 逸失利益=侵害者の

実際の売上×(特許

権者のシェア÷(特

許権者のシェア+非

侵害競合のシェ

ア))×特許権者又

は侵害者の利益率

• 適切な市場画定が

必要。

• 市場内の製品が同

質である(需要の

価格弾力性がゼ

ロ)という前提が

必要。

• 「販売できない事

情」に係る控除数

量について、「侵

害者の実際の売上

-左記逸失利益」

で算出できる。

顧客アン

ケート調

査法

• アンケート調査によ

り、侵害品と権利品の

間の代替性(顧客の選

択)について推定する

方法。

• 逸失利益=侵害者の

侵害者の販売数量×

(調査に基づく侵害

品がなかった場合、

権利品を選択する割

合)×特許権者又は

侵害者の利益

• 現実の購入行動が

反映されるような

質問設計が必要。

• 科学的サンプリン

グ手法が必要。

• 「販売できない事

情」に係る控除数

量について「侵害

者の販売数量×

(調査に基づく侵

害品がなかった場

(45)

3. 逸失利益の算定の枠組み

(1) 特許法第 102 条第 1 項又は第 2 項による算定 (i) 侵害者の売上を基礎とする方法

①基本的な考え方

特許法第102条第1項及び第2項は、民法第709条の差額説に基づく逸失利益としての損害を 簡易に推定するための規定であるが、算定方法として、いずれも侵害者の譲渡数量を基礎 としている。つまり、市場において特許権者と侵害者のそれぞれの製品の間に強い代替性 があり、もし侵害者がいなければ、その売上や利益は特許権者がすべて実現していたと考 えられることが暗黙の前提とされている。反対に、特許権者と侵害者の製品が同じ特許発 明を実施していたとしても、それぞれの実施品の間に顕著な代替性が認められなければ、 侵害者の製品が市場に存在しなかったとしても、必ずしもより多くの特許権者の製品が売 れていたとは限らないということになるから、同規定は使用できない。

特許権者の立証負担を軽減させるという立法趣旨からすれば、直ちに特許権者に代替性の 立証が求められるわけではないが、このような完全な代替性という前提が適切でない場合 があることは前記のとおりである。また、侵害者の製品以外に代替的な非侵害の競合が存

しない割合)」で

算出できる。

102

前後法 • 特許権侵害が発生する

前後の時期を比較する

ことで、特許権侵害が

原告の売上・価格・利

益に及ぼした影響を推

定する手法。

• 逸失利益=((侵害

前の価格)-(侵害

後の価格))×侵害

期間の販売数量

• 市場の状況やコス

ト構造などが侵害

の前後で変わらな

いことが前提(成

立しないことが多

い)。

計量経済

学的手法

• 計量経済学的モデルに

より、逸失売上や価格

低下、逸失利益を推定

する方法。

• (モデルに基づく推

定)

• 他の手法と比べデ

ータ要件が厳し

い。

• 計量経済学のスキ

(46)

在する場合、もし侵害者が市場に参入していなかった場合、侵害者の売上はすべて特許権 者が実現していたわけではなく、一部は非侵害の競合がシェアを獲得していたと考えるこ とが合理的であることについては、第III章3.節(1)の(ii)で別途後述する。

また、特許法第102条第2項は、侵害者の利益を特許権者の利益として推定するものである が、前記に加えて、特許権者と侵害者の間でコスト構造が概ね等しいことや、侵害者と特 許権者のそれぞれの製品の間で、品質や機能等の差異、販売条件等の差異がなく、同水準 の価格であることなどが前提とされている。

米国においては、我が国の特許法第102条に相当する推定規定はないことは前述のとおりで あるが、侵害者の譲渡数量を基礎として損害を算定する方法は多くのケースにおいて採用 されている。その場合であっても、当然、逸失利益の認定基準であるパンデュイットテス ト(①実施品の需要が存在すること、②非侵害の代替商品が存在しないこと、③特許権者 が需要を取り込むための製造販売能力を有していたこと、④特許権者が得ていたであろう 利益の額の立証)をクリアする必要がある。市場に供給者が2社しか存在しない場合には、 前記②は満たされているが、そうでない場合であっても、市場シェアによって逸失利益を 配分的に考慮する方法があることは第III章3.節(1)の(ii)で後述する。

②譲渡数量の算定

第1項適用の場合、まず、侵害に係る事実認定において特定された事実に基づいて、侵害の 時期において販売された侵害品(侵害の行為を組成した物)の譲渡数量を算定する。譲渡 数量の算定のためには、公開データがない限り、裁判所からの文書提出命令、又は侵害者 からの自主的な証拠開示に基づく情報が重要となる。

ただし、侵害者が開示した情報の正確性、信頼性に対して特許権者が確認を求める場合、 特許権者の委託を受けた専門家、又は裁判所が選任した計算鑑定人が鑑定を行うことがあ る。日本公認会計士協会による「計算鑑定人マニュアル」には、譲渡数量算定の際に留意 すべき事項として、次のように記載している29

 譲渡数量の「譲渡」とは、有償に限らない。試供品などの無償配布であっても、そ れにより特許権者の販売数量が減少し損害をもたらした場合には譲渡数量に含ま れる。

29 「計算鑑定人マニュアル 知的財産権侵害訴訟における計算鑑定人制度の調査研究」(日本公認会計士協会 2004 年 1

(47)

 裁判所からの鑑定事項には、侵害品の名称が明記されている。会計帳簿その他証憑 書類から当該侵害日の譲渡数量を正確に識別し、算定できるか調査を行う必要があ る。

 同じく鑑定事項には、算定対象期間(侵害期間)も明記されている。この期間につ いて、帰属の正確性を確保できるよう配慮する。

 貸出品、無償提供品、未出荷売上、出荷未売上など特別な取引条件、特殊な取引形 態や会計処理が行われている場合、内容を調査し適切な判断を行う。

侵害品の販売に係る証拠が電子化されており、侵害者が信頼性の高い管理会計システムを 有している場合、譲渡数量に係るデータを管理会計システムから入手することが可能であ る。このような場合、会計システムについて専門的知識を有する専門家や計算鑑定人が譲 渡数量データの入手を再現する、又は他の製品区分のデータと合計した数値が監査済みの 売上と合致することを確認するなどの方法で、譲渡数量の正確性を確認することができる。

③権利品(侵害品)に固有の利益

特許法第102条第1項を適用する場合、侵害者の譲渡数量に対し、特許権者の単位当たりの 利益を乗じることで損害を推定する。第2項を適用する場合には、侵害者の利益を損害とし て推定する。これらの場合、2つの点に留意する必要がある。すなわち、これらの利益は権 利品(特許権者の特許実施品)又は侵害品に固有の利益であり、かつ、追加的な製品の製 造販売に係る限界利益であるべきであるという点である。

図表 4  日米判決における損害類型別構成  注  :平成 10 年(1998 年)の特許法改正により 102 条の枠組みが変更された。対象期間は 1998 年 1 月から 2017 年 11 月末となり、第一審のみを集計。  出所:大阪弁護士会 知的財産法実務研究会編『知的財産権・損害論の理論と実務』別冊 NBL139 号(商事法務 2012 年) 、Darts-ip よりデロイトトーマツ ファイナンシャル アドバイザリー合同会社作成。  注  :対象期間は 1997 年から 2016 年、第一審のみを集
図表 6  産業別の認容額中央値
図表 7  日本における認容額上位 10 件(直近 10 年)  原告 被告 事件番号 レベル 判決 年月 請求額 認容額 被告 売上  東ソー  ミヨシ油脂  平 成 22(ネ)10091  控訴審  2011 /12  3,099  1,701  47,545  イシダ  大和製衡  平 成 19(ワ)2076   第一審  2010/1  3,000  1,498  21,909  中外製薬  岩城製薬、高田製薬、 ポーラファ ルマ  平 成 27(ワ)22491  第一審  2017/7  1,29
図表 8  米国における認容額上位 10 件(直近 10 年)  原告 被告 レベル 判決年月 請求額 (百万$) [十億円] 認容額 (百万$) [十億円]  被告売上 (百万) [十億円]  形態 Indenix  Pharmaceutic als LLC   Gilead  Sciences Inc
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参照

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